【一年は、なぜ年々速くなるのか】人は変化を欲しているのかもしれない

※当サイトでは広告を掲載しています

子供の頃は1年がものすごく長い時間に感じられていましたが、大人になると1年どころか3、4年があっという間に過ぎ去ってしまいます。

このようなことがなぜ起こるのかを物理学や生物学、心理学などの研究結果を基に、一般向けにわかりやすく議論したのが「一年は、なぜ年々速くなるのか」という本です。

この本の巻末をみると2008年に出版されたものらしく、その直後に購入して読んだと思われるので、もう10年以上経っていることになります。

年々所有する本の数が増えていくので、新書などの読みやすい本は真っ先に処分の対象になりますが、この本はなぜか処分できずに残っています。その理由を考えてみると、時間感覚が楽しく生きているかどうかの指標の1つになると思っているからで、それを忘れないようにするために処分していないのだと自己分析できます。

この本では、さまざまな観点から仮説を立て議論を展開していきますが、一年が速く感じられるようになる認知的な視点として、最終的に以下の2つを提示しています。

周囲との比較から一年が速く感じられる

加齢によって、頭の回転が遅くなり、体力も衰え、仕事の効率や達成率が若い人に追いつかなくなるために、時間が足りないと感じ、一年が速く感じられるようになるとしています。この結論は、いくつかの仮説を組み合わせて表れてきたものですが、ここでは触れません。

ただし、この本ではあまり触れられていませんが、加齢ではなく知識の増加によって判断に時間がかかるという考え方もできます。頭の回転が遅くなるというよりは、知識が増えたために考えなければならないことが増え、その結果、判断に時間がかかり仕事の効率が落ちてしまうという考え方です。また、何度も失敗を経験しているためにより慎重になってしまうという考え方もできます。この本でも、それっぽいことは書かれていますが、おそらく科学的根拠がないために深くは触れられていないのだと思います。

自分の内部で一年が速く感じられる

個人的にはこちらの観点に興味があります。

まず、経験則として、楽しい時間やなにかに集中している時間はあっという間に過ぎますが、振り返ったときには長い時間として認識されます。逆に、退屈な時間を過ごしているときは長い時間に感じられますが、振り返ったときには中身が空っぽであっという間に過ぎ去ってしまったかのように感じます。因みに、この本で議論しているのは振り返ったときの時間です。

これらは、記憶に残る出来事がたくさんあるほど、振り返ったときに長い時間として認識されると言い換えることができます。年齢を重ねると毎日が単調なルーティンになってしまい、充実度や達成感が低下することによって一年が速く感じられると解釈できます。

本書では書かれていませんが、ルーティン作業が記憶に残りにくくなることについては心理学の研究によっても明らかになっています。ここで詳しくは述べませんが、ルーティンのような過去に似たような経験をしている場合、過去の記憶と混同することによってそれがいつ行われたものなのかという記憶が消失してしまうのです。

それともう一つ、自伝的記憶の研究では、10〜30歳頃の出来事が記憶に残りやすいというレミニセンス・バンプという現象が知られています。その原因として、10〜30歳頃の出来事は、自分が何者かという自我同一性を確立する上で重要であり、何度も繰り返しリハーサルが行われ記憶が精緻化されるためと解釈されています。これは、30歳以降はリハーサルの回数が減っていくともいえます。つまり、歳をとるに連れ出来事への興味関心が薄れ、リハーサルの回数が減るのだと考えられます。

本書の中では、著者が知り合いの作家に「一年は年々速くなるかどうか」について質問したときに、「オレは時間が年々速くならないように工夫している」という答えが返ってきたといいます。一日単位、一週間単位、月単位、年単位でルーティンに陥らないように注意しバリエーションをもたせることによって、一年は長いと感じられるといいます。

人は変化を欲しているのかもしれない

「人は変化を嫌う」とよく言われます。これは不安という感情的な面を考えれば、ある程度は正しいのだと思います。変化がなければ脳に負担もかかりません。ただ、人の本質的な部分を考えた場合、これは間違いであるともいえます。

好奇心、興味、関心。これらは知らないことを知りたいという感情であり、知らないことを知るというのは自分自身を変化させることでもあります。自分自身を変化させるというのは、自分の周囲の環境を変化させることと実質的には同じことです。

変化を嫌うのは表面的なもので、人は本来、変化を望む生き物なのかもしれません。

読書」のページ