【記憶の構造】記憶の状態依存性

人間の記憶の構造は完全に解明されているわけではありません。むしろ解明されていないことのほうが多いのかもしれません。近年では神経科学や脳科学的(?)なアプローチが活発化していますが、私の勉強不足もあってか、個々の神経細胞の結びつきから記憶の構造を理解するのは非常に難儀な方法になりそうです。

ここでは、心理学の研究結果と私個人の経験を基に(神経科学的な視点も出てくるかもしれませんが)、人間の記憶の構造について見ていきたいと思います。

質と量ともに簡単に終えられるような内容ではないので、かなりのページ数になるかもしれませんが、のんびりと執筆していきたいと思っています。

記憶の状態依存性

現在のコンピュータと人間の脳の違いについて、最もわかりやすい現象のひとつが忘却です。コンピュータの場合は一度記憶させれば、コンピュータが壊れるか意図的に削除しない限り完璧に記憶を保持することができます。しかし、人間の場合は完璧に記憶するまでには何度も反復(リハーサル)しなければならず、記憶が脳の中にあるにも関わらず思い出せないという現象が生じます。

記憶に関する面白い実験のひとつに、ゴドンとバッデリーの研究があります。彼らはスキューバ・ダイビングクラブの学生に、単語のリストを水中で記銘する(記憶する)グループと陸上で記銘するグループに分け、これらのグループをさらに2つずつにわけて、記憶した内容を水中で再生する(記憶を取り出す)グループと陸上で再生するグループの計4つのグループを作りました。

その結果、記銘時と再生時の環境(水中か陸上か)が一致しているグループの方が一致していないグループよりも再生成績がよかったのです。

これは水中か陸上かという周りの環境だけではなく、楽しい気分なのか嫌な気分なのかといった感情が記銘時と再生時で一致しているか否かという実験によっても、同様の結果が得られています。

このような、記銘時と再生時の環境的文脈や記憶する人の内的状態が記憶成績に影響する現象は「記憶の状態依存性」と呼ばれます。これは日常生活においても頻繁に見られる現象です。例えば、テスト勉強では完璧に覚えたはずなのに、いざテストとなると思い出せなくなることです。テスト勉強とテストが行われる環境が異なっていたり、テストのときに緊張することによって内的状態が異なるためである、と説明できます。この他にも、嫌なことがあってイライラしていると、過去にあった嫌なことばかり思い出してしまうといったことが挙げられます。

これらの研究結果は、人間の記憶に関する当たり前の事実を思い出させてくれます。まずひとつ目は、記憶されたことを思い出すには何らかのきっかけが必要になるということです。これを否定することは、問題が提示されていないのに「問1」の答えがわかってしまうようなものです。普通に考えれば、問題が提示され、それがきっかけとなりその問題に対応する答えを思い出すわけです。この考え方は構造的に学習心理学における条件づけに似ています。もちろん条件づけは学習プロセスを指すものであって、記憶のプロセスを指すものではありませんが、学習するには記憶が必要になることを考えれば、似てくるのも当然と言えるでしょう。

そしてもうひとつ、当たり前の事実として、人間はものごとを単独で記憶することができないということです。例えば、りんごの見た目を記憶しようとするとき、必ずりんごの背景やりんごが置いてある土台、その他の物体などが視界に入ることになりますし、嗅覚や聴覚、皮膚感覚といった感覚器官からも常に情報を得ています。たとえりんご以外の周りの景色を真っ暗にしたとしても、その真っ暗であるという情報とりんごは結びつくことになります。おそらく、これらの感覚器官を一時的に遮断することは不可能なので、何かを記憶するときには必ず複数の情報が結びついた状態で記憶されることになります。これは、記憶されたことを思い出すにはきっかけが必要になることと強く関係しています。

実際には、記憶された後でも他の情報との結びつき方は変わることになるとは思いますが、これらの研究結果からわかることは、再生されることが重要になる記憶の場合には、さままざな環境や心理状態で記憶したい情報を反復することが、さまざまな環境下で再生できる可能性を高めることにつながる、ということです。

ただし、これは記憶のひとつの側面に過ぎません。このページでは記憶の「結びつきの数」について見てきたことになりますが、これ以外にも「結びつきの強さ」や「既存の記憶」(これも結びつきの数ですが)が記憶の再生に影響する要因として挙げられます。これについては、今後の記事で書きたいと思っています。

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